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【社会】JRに乗車拒否された車椅子の女性の主張は決して間違っていない

発端はこのツイートだった

 このツイートが見事に炎上して、車椅子の女性に非難が殺到した。個人的には、自らの経験から、車椅子の苦労も多少わかるつもりだ。

「JRに乗車拒否された」車イス利用者のブログに賛否 駅員の対応は問題だったのか、国交省に聞いた(J-CASTニュース) - Yahoo!ニュース

自分だって、自分の子供だっていつ障害者になるかわからない。そして、障害者になってしまったら、生活コストは跳ね上がり、収益稼得能力は通常下がる。その負担は一人で抱えるのは無理だと思うので、障害者に優しい社会を作るように働きかけることは、確かにコストはかかるものの、自分の将来や子供にとって保険になりうると思うので、すぐにこの女性を叩く気にはなれなかった。

しかし叩いている人たちの主張もわからなくはない。箇条書きにするとこんな感じだ。

  • 事前に連絡すべきだった。女性が降りたいと機能した駅は小規模な駅で、100キロ以上ある電動車椅子を運ぶのは大変な重労働である。
  • JRはインフラ企業であり、公共交通機関を担う企業ではあるが、あくまでも私企業であり、すべての駅でいつ車椅子の障碍者が来ても対応できるような体制を敷くことはできない。
  • 10年前にも似たようなクレームをつけており、その時のことを新聞に投稿している。社民党の関係者でもあるようで、悪質なクレーマーの可能性がある。

...こんな感じだ。確かに彼女のブログの中で、結局運んでくれた駅員さんたちへの感謝の表明がなく、またもめている1時間の間に新聞社などに通報する手慣れた感じは自分も気にはなった。ただ、彼女の主張は間違っているのだろうか?批判者たちに感じるのはクレーマーに対する嫌悪感だったり、障碍者だったら親切にしてもらえるのが当然なのかといった趣旨で要は感情論のようにも見える。彼女の主張は法に照らして間違っているのだろうか。

彼女の主張は以下の通りである。

  • 余裕をもって30分前には到着していた。バリアフリー法があるので、車いす対応をお願いしますと依頼したが、3000人以下は対象ではないと拒否された。
  • 障害者差別解消法があり、エレベーターがない駅は、合理的配慮としてほかの手段で対応していただく法律があり、エレベーターを作ってほしいと言っているわけではなく、エレベーターがないならば、それ以外方法で対応する義務があると主張したが、それも拒否された
  • 小田原駅では対応できないといわれたが結局熱海駅では対応され、目的地に遅れながらも到着できた。
  • 事前にホームページで来宮駅の構内図を調べてきたが、階段のことがよくわからず、かつ連絡が必要なこともわからなかった。
  • 交渉をしたり、記録をとったり、メディアに連絡したりとこんなことはしたくないが、声を上げないと何も変わらないので実施した

バリアフリー法は、移動円滑化経路の整備義務がないだけで、車椅子対応をしなくていいというのはおそらく誤解なのだが、ここでは障碍者差別解消法に照らして彼女の主張を検証したい。

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すぐわかる!障碍者差別解消法より引用

障碍者差別解消法では、正当な理由なく、サービスの提供を拒否することを禁止している。ここで想定される反論は二つだ

・合理的配慮の提供は努力義務に過ぎないのだから、対応できなくても問題ない。

・事前連絡もなしで車椅子を運べという彼女の主張は合理的配慮を超えており、鉄道業者の拒否は正当な理由に該当する

上記の反論も理解できないではない。しかし、これが夫婦でやっているこじんまりとした飲食店の話ならまだしも、鉄道業で起きた話であり、完全に私企業だから問題なしという意見には賛同しかねる。鉄道事業等は、鉄道事業法により規制をうけており、大量輸送の確保、安全・定時運行という事業特性を帯びており、障害のある方やその周囲の方を含めたすべての旅客に対し、安全で安定した輸送を提供することが求められているはずである。

そう思って、探していたら、やはりあった。「国土交通省所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」である。ここのP13に鉄道事業関係は障碍者差別解消法にどのように対応すべきかの記載がなされている。

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この取り扱いには、障害があることのみをもって乗車を拒否することは差別であるとはっきり明記されている。さらに、係員が補助を行っていても、移動が困難である場合、「利用可能駅・利用可能列車・利用可能時間等の必要最小限の利用条件を示す」という記載がある。実際に、今回運搬に手間取ったことが直ちにJRの責任であると断定できないが、少なくとも彼女は事前にHPを確認してきており、当該駅では車椅子の運搬対応ができないことをJRははっきり明記すべきであったことはいえる。この指針は、平成27年に出たものであるのに、いまだに対応ができていないのは、JRの落ち度であるといえる。

ここで想定される反論が一つある。JRは車椅子の運搬を行う場合には、HPに事前に連絡しろと書いてあるではないかと。。

実はちょうど今年の3月に「駅の無人化に伴う安全・円滑な駅利用に関する障害当事者団体・鉄道事業者国土交通省意見交換会」が実施されている。

https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001394601.pdf

ここでの第3回での議事録の中で、JR九州は、以下のように事前連絡がなくても対応するようにと社内でも周知徹底しているとある。もちろんJR東日本と九州は別の会社ではあるが、少なくとも九州では事前連絡がないことをもって、運搬を断る理由にはならないと認めて周知徹底を図っているのである。

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ネットでは、無人駅も含めたすべての駅で車椅子の対応を行えというのは非現実的で、いかにもモンスタークレーマーの主張であると叩かれ続けているが、この意見交換会の議事録を見れば、国交省は明確に無人駅であっても、車椅子の対応を行うことを求めて、各鉄道会社はそのために色々な取り組みをしていることがわかる。

その是非はここでは論じないが、少なくとも彼女の主張は独りよがりなものではなく、国交省が出している指針や意見交換会の議事録に沿ったものである。

もちろん事前連絡をすればよかったのはわかる。彼女のふるまいにまるで問題ないと思わない。しかしそういった感情論を排除して、彼女の主張を法律や国交省の指針と照らし合わせてみたら、実はおかしなことは言っていないのである。